喉詰め窒息 必死の対応

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病棟クリスマスイベントの前日に喉詰めによる窒息事故がおこりました。
その日の勤務は、私を含め看護師4人とヘルパーさん数名
私は、他病棟の先輩看護師に呼ばれ、院内の対角線位置する最も遠い病棟へ、
もう一名の看護師は、委員会に出席中…、事故発生時、50数名の患者に対し2名の看護師という病棟の状態です。

先輩看護師と会話中、院内緊急コール、発生場所は、なんと 私の病棟です。

とにかく猛ダッシュで南棟4階から北1階の自分の病棟へ走りに走った。

詰所内の床に患者Nさんが紫色の顔で倒れ、すでに胸骨圧迫(心臓マッサージ)が始まっている。
詰所内の机や処置台は部屋の隅に追いやられ、スタッフの怒声が飛び交う。
「パン詰めた」という声にポケットに入れているプラスチック手袋をはめる。
一秒を争うこのときに手袋をはめる時間すらもったいない。

この数分が勝負

口内に手をいれ掻き出すが、気道が開通しない。
「掃除機」と叫んでいるが、なかなか準備ができない。
スイッチが入らない、「なぜ、…」、応援に駆けつけたスタッフも必死だ。

最近、携帯し始めたポケットマスクを取り出し組み立てる。
胸骨圧迫(心臓マッサージ)は継続しているが、胸が陥没し始めている。
気道にわずかな隙間があることを願い、2回程吹き込んだ。
かなり抵抗があり、気道が詰まっている。
吸引用掃除機の準備ができ、ノズルを口内に入れ密閉、吸引…
ノズルの中をパンが上がっていく、今まで見たことがないほど、ノズルの中が汚れている。

あかん、まだ詰まっている。

どんどん飛ぶように時間が過ぎていく低酸素による脳へのダメージが心配だ。
内科医が「喉頭鏡、カンシ」と叫ぶ。
喉頭鏡とマギールかん子で直径3センチ程のパンの塊が4、5個取り出され、
ようやく気道開通、モニターや挿管の準備も整っている。

気道開通までにかなりの時間が経過している、多分10分から15分…。
しかし、胸骨圧迫(心臓マッサージ)は、倒れた直後からつづけているので回復の見込みはまだある。

モニター装着後、評価は・・・、フラット  心静止・・・、瞳孔散大…

即座に胸骨圧迫と人工呼吸を30:2で開始
まだ詰所の床のうえ・・・、気管挿管、
聴診器で確認・・・、あっ、胃が膨らんだ。
食道挿管だ。カフの空気を抜き、抜管・・・、
暫く、CPCRを実施してから、再挿管、次はOK。
ここからは、胸骨圧迫(心臓マッサージ)と人工呼吸を非同期で実施
2分間、CPCRをつづけ、評価を繰り返す。
心拍がモニター上に出た。
無脈性VT(無脈性心室頻拍)か・・・、頚動脈を触知してみる。

あっ、脈がある。心拍再開

心拍が安定し、ようやく詰所内の診察用ベッドに上げた。
その後、病室でルート確保し、薬剤、酸素、呼吸器をつけ、全身管理となる。
自発呼吸も出てきたが・・・、意識はもどらない。

異物除去をおこなった内科医が「パンを詰めたというより、気管に押し込んだようになっていた…」と言っていた。

2台ある電話の一台は、机を端に押しのけたものだから電話線が抜けて通話できない。
グシャグシャになった詰所が壮絶さを物語っている。

みんな必死で頑張って心肺機能は辛うじて回復し命は取りとめたが、・・・脳は助からなかった。


発見時、Nさんは、まだ意識があり、フラツキながらホールの喫煙室付近を歩いていたそうです。おかしいと思った看護師が詰所へ腋を抱えて誘導し、詰所に着いたとたんに意識を失い倒れました。その場でパンを掻き出しましたが、チアノーゼは進行し緊急コール発動となりました。

この事故前後にヘルパーさんが洗面所(蛇口が並んでいる学校のような洗面所)を掃除しようとしたところ、流し全体に多量の食パンを吐き出したようなあとがあるのを確認しています。

事故から2日後、隣の病棟(フロアつづきになっている)のある患者のロッカー内の食パン6枚切りがなくなっていることが判明。

このような状況から、Nさんは、盗んだ食パンを洗面台付近で急いで食べて喉詰めし、ある程度は洗面台に吐き出したものと思われます。
しかし、喉詰めは解消せず、苦し紛れに窒息した状態のまま、20メートル程はなれたホールへ出てきて意識もうろうとしているところを発見されたようです。

一般向けの消防署などで指導される心肺蘇生(CPCR)では、人工呼吸に抵抗がある場合、胸骨圧迫(心臓マッサージ)のみでもよいとされています。
今回の事故では、Nさんが意識喪失直後から胸部圧迫を継続的に実施していますが、理想的な形で蘇生しなかったのはなぜでしようか。

これは、同じ心肺停止でも、心源性(心臓そのものに原因がある)か呼吸源性(窒息など呼吸に関わる原因)かによって気道開通は大きなポイントであるということです。

特に喉詰めによる窒息では、全く換気ができないので、いくら胸骨圧迫(心臓マッサージ)で脳に血流を送り込んでも低酸素状態になるのは必至ということなのでしょう。

一方、心筋梗塞など心源性の心肺停止では、気道さえ開通していれば、胸骨圧迫のみでも胸郭の上下によって必要最低限の換気ができるということです。
最近の研究論文では、胸骨圧迫のみの方が逆に救命率が高いという発表もあるほどです。

精神科や老年科などに多い喉詰めによる窒息事故では、胸骨圧迫を実施しながらも異物除去による気道開通が早急に必要だということになります。

残念ながら、気道開通に時間がかかりすぎた。

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